盲導犬と暮らす<前編>

毎年、4月の最終水曜日は国際盲導犬の日。盲導犬のユーザーは全国で約1000人と言われていますが、盲導犬と暮らす生活はどのようなものなのでしょうか。盲導犬ユーザーの方にお話をうかがいました。

 

見えているときと同じスピードで歩ける、夢のような気持ち

埼玉県入間市で指圧・マッサージ店を営む志賀信明さん。15年前に全盲になり、その後7年くらいは勤務先の寮で生活しながら仕事を続けていました。

 

ですが、白杖で寮と仕事場を往復する毎日に疲れてしまい、自宅開業を決意。通勤の悩みは解消したものの、外に出る機会が減り、ペットとして犬を飼うことにしました。犬の飼い方について本を読むうち、「盲導犬」という選択肢があることに気づきました。

 

「全盲になっても、盲導犬を利用しようとは思いもつかなかった。でも、たまたま読んだ本で関心を持ち、いろいろ調べて、体験歩行に行ったんです。そうしたら、見えていたときと同じように歩けて夢のような気持ちになり、すぐに申し込みました。盲導犬がこんなに素晴らしいなんてどうして今まで知らなかったのだろうと思ったくらい」。

 

申し込みから3カ月ほどで貸与が決まって歩行訓練を開始し、1年半後には「トリトン」が志賀さんのもとに。志賀さんにとって初代の盲導犬です。

 

「盲導犬のことは知っていても、自分も利用してみようとはなかなか意識が向かないんですよね。自分にも向いているかもしれない、と関心を持つことが大切だと痛感しました」。

 

 

 

2016年に盲導犬を引退したトリトンと奥さまとの記念撮影。トリトンは盲導犬と暮らすことの楽しさを教えてくれた大切な存在です。

 

盲導犬とそのユーザーの「仕事」

盲導犬ユーザーは、歩いているときに盲導犬がミスをしたら、その場で叱らなくてはなりません。盲導犬は仕事をする犬。仕事を厳しく教えながら一緒に生活をしていくパートナーなのです。

 

ですが、中にはそれを理解してくれない人もいると言います。

「上手に仕事ができなかったとき、道で犬を叱っていると、『盲導犬を虐待している』と動画を撮って協会に訴える人がいます。 

でも、わたしたちは、仕事を教えているのです。できないときはしっかりと叱り、できるまで教え、できたら思いっきり誉める。そうやって犬は仕事を覚えます。

 犬は、誉められたいから誉められるまで一生懸命がんばる。彼らにとって、仕事が上手に出来て褒められることが喜びなのです」。

 

訓練は家の中でもします。ユーザーの指示にすぐに反応できるよう、日々訓練することが大事。犬はその場で注意しないとわかりませんし、強くキッパリと叱らないと善悪の判断ができません。中途半端に優しくして、盲導犬の能力を鈍らせてしまうことの方がよくないのです。

 

「せっかく一緒に暮らしているんだから、仕事のできる犬にしてあげたい。それが盲導犬にとっての幸せですから」。

 

 

今は二代目の「オースティン」と生活をともにしている志賀さん。「犬好き」のオースティンは、犬がいると近づいて行ってしまうことも。愛嬌がありすぎるのが玉にキズです。

 

それでも、昔よりは周囲の理解も進み、盲導犬をむやみに触ってはいけないということをわかってくれる人も多くなってきたそうです。

 

駅のホームでの転落事故を防ぐためには?

「一番ありがたいのは、危険を教えてくれること。駅のホームでの転落事故がありましたが、『右側は危ない』とか『もう少し左を歩いた方がいい』とか、具体的に教えてもらえると助かります。特に、知らない駅は不安ですから」。

 

道で立ち止まっているときは、方向を確認しているとき。「どちらに行きますか?」の一声がありがたいそうです。

 

犬と歩きたいという気持ちが何より大事

「犬に『おりこうね』と声をかけてくれる人がいるのですが、犬が道を知っていて連れて行ってくれるのではなく、道を覚えて指示しているのはユーザーなんですよね。そんなときは、『おりこうなのはコッチなんだけどなぁ』と思います(笑)」。

 

盲導犬を迎えるために一番大事なことは?と聞くと、「犬と歩きたいと思う気持ち」と即答。 犬アレルギーでも盲導犬と歩いている人もいるそうです。パートナーである犬と寝食をともにし、世話をし、仕事を覚えさせる。その大変さは、「犬と歩きたい」という真っすぐな思いに支えられているのです。

 

この記事をシェアする

     

この記事を評価する