視覚障がい者と社会のかけ橋でありたい<前編>

~『点字毎日』記者 佐木理人さん~

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日本に二人しかいない全盲の新聞記者の一人、佐木理人さん。点字新聞の校正や取材・執筆のほか、講演活動もされています。そんな佐木さんに、お話をうかがいました。

 

前例のない仕事は暗中模索の日々

先天性の緑内障による弱視で、中学校に入る直前にほぼ全盲になった佐木さん。現在45歳で、奥様と娘さん二人との四人家族です。2005年に『点字毎日』編集部に入りました。

 

「点字の触読校正は私にしかできないので、毎週全ページをチェックしています。あとは、自分で取材に行って原稿を書いたり、外部のライターさんから上がってきた原稿の編集をしたりで、一週間はあっという間です」

 

佐木さんは、長い原稿は音声パソコンでテキストを書き、それを自動点訳ソフトで点字にして、活字原稿と点字原稿の両方を作成しています。

 

「例えば『~することができる』という表現は活字では普通ですが、点字で読むとまどろっこしく感じます。ですので、点字では『~できる』と詰めたりします。活字をそのまま点字にすればいいわけではないので、編集の視点が必要です」

 

新聞での表記の決まりなど、活字を点字化するにあたってのノウハウは明文化されていないので、日々模索しながら仕事をしているそうです。

 

周囲からの声かけは次につなげたい

佐木さんの記者としての活動の源には、視覚障がい者の事故をなくしたいという思いがあります。佐木さん自身、駅のホームでの転落事故の経験があり、記者としてはもちろん当事者としても、事故を防ぎたいという思いを強く持っているのです。

 

「事故を防ぐためには、ホームドアなどの環境整備、周囲の理解、本人の歩行技術など、さまざまな要素が必要です」

 

佐木さんは、可能であれば視覚障がい者は歩行訓練を受けた方がいいと考えています。

 

「正しい白杖の使い方や歩き方は、知っておいた方が安全です。歩いていて違和感があったり危険を察知したときは、立ち止まって確認するなど基本に返ることが大切ですから」 周りの人からの声かけも重要ですが、スムーズにいかないこともあります。

 

「最近、声をかけた人が邪険に断られたという話も聞きます。その人の勇気や誠意を十分に汲み取った上で、必要であれば介助をお願いする、必要でないときはお礼とともにその理由を伝えて、次の声かけにつながるようにしたいですね」

 

わたしたちは、見えない糸でつながっている

記者として仕事をする中で、佐木さんには、同じ障害のある人たちに伝えたいことが二つあります。

 

「一つは、見えない人、見えにくい人はたくさんいるよということ。一人で悩まないでほしいんです。同じ悩みを持つ人もいるし、全盲の記者もいる。そのことを知ってほしいと思っています」 もう一つは、「見えない・見えにくい世界っておもしろい」ということ。

 

「もちろん、見えなくなったり見えにくくなったりすれば落ち込むこともあるし、しんどいこともあります。でも、興味深いことをする人もいるし、アイデアに満ちた人もいる。このサイトは『見えるよろこび』ですが、『見えない・見えにくいおもしろさ』もありますよ(笑)。わたしたちは、まさに“見えない・見えにくい糸”でつながっているんです」

 

音声技術の発達とともに、点字を読める人も減少傾向にあります。『点字新聞』を作っている佐木さんにとって、点字の大切さとは?と聞いたところ、こんな答えが返ってきました。

 

「音声だと情報が流れていってしまいますが、指で読むと思考を深めることができます。また、言葉を正確に知るためにもやっぱり点字がいい。『コミニュケーション』なのか『コミュニケーション』なのか、音声だけだと表記がわからない。『デュテルテ大統領』なんて、聞いただけじゃわからないですよね」

 

『点字新聞』は、視覚障がい者に有用な情報を正しく伝えるメディア。そのやりがいと責任を感じながら仕事をされているそうです。

 

後編では、佐木さんの仕事での取材の様子などをお聞きします。

 

『点字毎日』(発行:毎日新聞社)

1922(大正11)年創刊の週刊点字新聞『点字毎日』は、視覚障がい者と社会をつなぐ架け橋として100年近くの長期にわたって発行されている、世界でもまれな取り組み。現在は点字版、活字版、音声版】を発行。2018年度日本記者クラブ賞特別賞を受賞。

https://www.mainichi.co.jp/co-act/tenji.html

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