あらゆる人と映画の楽しみを分かち合う<後編>
~「シネマ・チュプキ・タバタ」~
東京・田端にあるユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ」。設立までの思いや、来場される方たちの声を、代表の平塚千穂子さんにお話しいただきました。
映画を愛する人の、映画に恩返しをする気持ち
運営母体である「City Lights」の代表でもある平塚さん。いつかは、視覚障がい者のための常設映画館を持ちたいと思っていました。
「初めからユニバーサルという構想を持っていたわけではないんです。『せっかく作るなら、聴覚障がいの人や車いすの人など、あらゆる人が楽しめる映画館にしようよ』と持ちかけてくださった方がいて。みんなの『こんな映画館があったらすごいね』という夢が形になりました」
寄付金は、City Lightsの会員が知り合いに呼びかけるなどして集めていましたが、クラウドファンディングをきっかけに大きく広がりました。「やはり、ソーシャルメディアの力は大きかった。拡散力がケタ違いで、その効果を実感しました」
見ず知らずの人が出資してくれたり、音響設備のプロがボランティアで設営を手伝ってくれたりもしました。
「映画を愛する人たちが、『自分が好きな映画を楽しめない人がいるなら、映画に恩返しするつもりで手伝うよ』と言ってくださって。うれしかったです」
映画は人をつなぐ、それをチュプキが証明してくれました。
360°音に包まれる「フォレストサウンド」は、音を頼りに映画をイメージする人たちのための独自のシステムです。
音声ガイドの講習会と制作も行っている
作品のラインアップは、毎月変わります。もともと音声ガイドがついている作品はそのまま上映できますが、ついていないものはチュプキで制作しています。
「音声ガイド作成の講習会をやっていて、受講者さん8~10人のグループで2ヶ月くらいかけて1本のガイドを仕上げています」
最近では、スマートフォンのアプリで音声ガイドが聞ける作品も増えていますし、東宝では100%対応する予定。大規模なシネコンでは、今後さらにバリアフリー化が加速するでしょう。そのため、大手では上映しないような作品を中心にセレクトしていきたいと平塚さんは言います。
「アカデミー賞を取るような話題の作品などは他でも見られるので、当館では、小規模な外国映画や邦画のドキュメンタリーを上映したいと思っています。あと、古い映画のリクエストも寄せられているので、ガイドを作って上映したいですね」
City Lights命名のきっかけは、チャップリンの「街の灯」。映画を愛するすべての人に愛される映画館を目指しています。
来場者たちが作り上げる、心が豊かになる場
来場するお客さまには高齢の方が多いものの、最近では若い方も訪れるようになりました。「福祉のイメージを払拭し、見えないバリアを取り払いたいという思いもあり、先日はインディーズバンドを呼んでトークショーをしました。そのおかげで若い方がたくさん来て、ソーシャルメディアで広げてくれました」
システムに頼らず、人の手で運営するのがチュプキのやり方。チケットは受付で対面販売し、トイレなどの手助けが必要な場合は積極的に行います。時には、時間通りに上映できないときもあります。
「予約されたお客さまが遅れているときは、『予約の方がいらっしゃるまで、もう少しお待ちください』と言います。でも誰も怒らない。『こういうのがいいよね』『心が豊かになる』と言ってくださいます」
見える見えない、聞こえる聞こえない、を越えたところでみんな一緒に映画を体験できる場所。来る人たち自身が、喜びと感動を作る映画館です。
代表の平塚千穂子さん。好きな映画は「街の灯」と「バグダッド・カフェ」です。
「日本一小さくて、日本一やさしい映画館」としてオープンしたユニバーサルシアター。運営母体は「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」というボランティア団体。
全作日本語字幕・音声ガイド付きで上映。10:00~23:00の営業で、水曜日定休。
JR山手線「田端駅」北口から徒歩5分
住所:東京都北区東田端2-8-4
電話&FAX:03-6240-8480