触ってわかる自分だけの地図を作る<前編>

~新潟大学 福祉人間工学科 渡辺哲也准教授~

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「人の役に立つ研究をする」をモットーにしている渡辺先生。見えない人のための「触ってわかる地図=触地図」をデータ化し、インターネットを通じて頒布しています。前後編にわたって、渡辺先生の研究についてお聞きします。

 

見えない人にも見えにくい人にも役立つように

渡辺先生が研究開発した触地図は、パソコンで立体地図のデータを作り、それを立体コピー機を使って専用紙に印刷すると、道路や建物などが凹凸のある線や模様で浮き上がる地図。文字情報は点字と墨字で併記されています。

 

「多くは、私たちが開発したtmacsという触地図自動作成システムを使って作っています。一般の地図を触地図の画像データにした後、目印となる建物や目的地をわかりやすくデフォルメしたり、方位の記号や点字を入れたりするのは手作業。全自動は難しいですね」

 

対象としているのは全盲の方ですが、ロービジョンの方たちにも役立つようにと工夫しています。

 

「当初は文字情報は点字だけだったのですが、墨字を大きく入れるようにしました。ロービジョンの方は、道路の黒い線や墨字の文字を見たり、凹凸を触ったりしながら、使ってくれているようです」

 

見えない人も、見えにくい人も使える触地図。可能なかぎりのユニバーサル化を目指しています。

 

利用者さんが必要なものだと声を上げてくれた

主要な駅周辺の触地図はすでにインターネット上で公開しています。最近では、ユーザーさんからの要望ごとに作成していて、ここ5~6年で100枚以上は作成しました。

 

「多いのは、ご自宅の最寄駅の地図や地下鉄の駅ですね。駅にも立体的な地図は用意されていますが、やはり皆さんは“自分の地図”が欲しいんです。それに、駅に来れば触る地図があるよと言われても、行く前に知りたい。乗り換えとかは事前に知っておきたいですよね」

 

自然災害が多くあったこともあり、避難所に行くまでの地図の要望もありました。

 

「函館の方から自宅周辺の防災地図を依頼されて、お送りしたらとても喜んでくださって。これは必要なものなんだと、視力障害センターに話をしたり、地元のテレビ局に取材してほしいとかけあってくださったそうです」

 

ユニークなところでは、長崎のハウステンボスの園内地図をリクエストされたことも。

 

「友だちと行きたいからって。楽しんでいただけたらうれしいですよね。これを機に、全国のテーマパークに行って作ったみたいなんて思ったりして(笑)」

 

あくまでも研究機関なので、広報宣伝がはばかられる分、利用者の方が必要性・重要性について声を上げてくださることが大切なのだそう。開発としては一段落した今は、普及活動に力を入れたいと言います。

 

tactile map

 

 

「行ける」だけでなく「知りたい」をサポート

海外では触地図の利用に関する研究論文が多数あり、その効果・効用が議論されています。しかし日本では、触地図に関する研究論文は非常に少なく、ここ10年ほどは渡辺先生の研究にほぼ限られています。

 

「最近では、スマホのGPSの読み上げ機能を使って、見えない方も目的地に行くことはできるようになりました。それでも触地図を欲しいという人はいる。それは、触地図だと方角と距離感、道の状況がわかるからです。ただそこに到着すればいいというのではなく、プロセスを知りたいというのは当然のニーズだと思うのです」

 

自宅近くなら戸惑わずに行くことはできる。だから、近所の親戚の家に行くのには困らない。でも、ある利用者さんが、「触地図を使ってみて初めて、親戚がどこに住んでいるのかわかりました!」と言ったそう。見えない方にとって、「できる」と「わかる」は違うのです。

 

「お住まいの近くの点字図書館に行ったら、いつでも欲しい触地図をプリントしてもらえる。それが理想。利用者さんは『忙しいのにすみません』と言って依頼してきます。そんな気遣いをしなくていいようにしたいですね」

 

後編では、渡辺先生の研究の歩みと今後についてお聞きします。

 

新潟大学 工学部 福祉人間工学科 渡辺研究室

http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/

 

触地図のホームページ

https://tactilegraphics.net/

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