触ってわかる自分だけの地図を作る<後編>

~新潟大学 福祉人間工学科 渡辺哲也准教授~

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渡辺先生の研究室では、「触ってわかる地図=触地図」のデータを作成して公開しています。なぜこのような研究開発をはじめたのか、また今後の課題についてうかがいました。

 

日本語初の読み上げソフトを製品化

大学では電気工学科だった渡辺先生。修士課程で生体工学科に進んだところ、視覚障がい者の空間認知や人口内耳、人工咽頭の研究をする先輩たちに出会い、音声の知覚に関する研究をしていました。

 

修了後、障害者職業総合センターの研究部門に就職したのが、Windows 95が日本に入ってくる直前のこと。

 

「Windowsになったら、画面上でアイコンの絵をクリックしないとパソコンは動かない。アイコンが見えない人がどうしたら使えるか、研究を始めました」

 

所属していた部の職員5人のうち、2人が視覚障がい者。身近にいるスタッフにも協力をあおぎ、見えない人のために役立つようにと、日本語初のWindowsの読み上げソフト「95リーダー」を2年かけて製品化しました。

 

「OSだけを音声化しても、アプリケーションが対応していないと使えません。辞書や乗り換え案内などのソフト開発会社に、音声化対応の依頼を直談判する日々でした」

 

ここから、見えない人の役に立つものを作るという渡辺先生の研究が始まったのです。

 

情報やシステムが届けやすくなった

障害のある方のための研究というと、産学連携で大規模に行うイメージがありますが、渡辺先生のところはホームページを開設してデータをオープンにしています。

 

「私たちが研究開発しているのは、情報でありシステム。インターネットが発達しているので、データをダウンロードしてもらえれば使ってもらえます。以前はフロッピーなどの製品の形にしてユーザーさんの元に届けなくてはならなかったのですが、今はネットで配信すればいい。ずいぶん便利になりました」

 

触地図自動作成システム自体は研究室で開発したものですが、それ以降はユーザーさんからのニーズに応じる形で発展させてきました。

 

一つ何かを作って発表すると、それを使った人から『もっとこうしてほしい』『こういうものも作ってほしい』とリクエストが寄せられます。立体の日本地図も、昨年のイベントで展示したところ、こういうものは盲学校にあるといいと言ってくださる方がいて、実際に盲学校で使ってもらうことになりました」

 

現在は、学生たちが週に一回程度ボランティアに行っており、そこで新たなニーズを掘り起こしています。それが次の研究につながっているのです。

 

map around Tokyo

 

使い勝手や多くの人が使える体制作りが課題

「正直言って、困っているんです」。渡辺先生に今後の研究テーマを聞くと、こんな意外な答えが返ってきました。

 

「視覚障害の方たちの従来のニーズは、『文字が読みたい』『一人で歩きたい』でした。それがここ数年、AIのおかげで音声案内機能が発達して可能になりました。スマホのアプリもタダで使えますしね。ユーザーさんたちにとってはいいことなんですが、研究テーマを考えるとなると悩みます」

 

科学技術は日進月歩。精度が高まることも、新たなシステムやツールが生まれることも、おおいに期待が持てます。

 

「だからといって、誰もがすぐに使えるわけではない。使い勝手の部分においては、これまで視覚障害の方たちを対象にした研究をしてきた経験が活かせると思っています。また、触地図に関していえば、『触りやすく』『触ってわかりやすく』を追究する必要もある。もっと多くの方たちに使ってもらえる体制作りも課題です」

 

渡辺先生の研究室には、先生の信念を受け継ぐ学生たちがいます。

 

「学生たちには、『技術は人の役に立つもの』という思いを持っていてほしい。困っている人のニーズを汲み取って研究開発に反映させるというのは、とても大切な仕事ですから」

 

人の役に立つ研究をモットーにする渡辺先生は、これからも見えない人たちのための研究を続けていきます。

 

新潟大学 工学部 福祉人間工学科 渡辺研究室

 

http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/

 

触地図のホームページ

https://tactilegraphics.net/

 

 

 

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