“触常者”から見たwithコロナの時代<後編>

~「触文化」の意義を考える~

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「新しい生活様式」では手洗い・消毒が推奨され、「触る」前後の約束事のようになっています。国立民族学博物館准教授の広瀬浩二郎さんに、コロナ禍においての「触ること」についてお話を伺いました

 

触ることで何千年の時間の重みを感じる

「触文化」という言葉を提唱した広瀬さん。その背景には、前編で述べたように自身が全盲であることともうひとつ、現在の職業があるそうです。

「2001年に今の博物館に就職しました。これはまったくの偶然で。博物館は『見学』という言葉が象徴するように、『見ること』が前提ですよね。そこに見えない僕が入り、手で触って展示物を確認するということを始めたわけです。」

すると、見るだけではわからない質感や温度、かたさなど、体全体で“鑑賞する”おもしろさを感じました。

「大きい彫刻作品に抱きついてみたり、下から上に向けて触ってみたりすると、その作品のエネルギーというのかな、迫力を感じることができたんです。これはおもしろい、見える人にも見えない人にも体験してもらいたいと思ったのが、『触文化』を考え始めた背景のひとつでもあります。」

国宝や重要文化財など触れてはいけないものもありますが、例えば縄文式土器では、破片も保存されています。土器の全体はレプリカを触ることで把握し、破片は実際のものを触る。するとイメージが統合されていきます。

「何千年前の縄文人が作った本物を触ると、リアリティーが出ますよね。その時間の重みを感じることができる。僕はこれを『縄文人と握手する体験』と言っています。」

 

「手洗い・消毒をして触る」というマナー

コロナ禍では、「触る」ことが見直されています。「触る」をテーマにさまざまな活動を続けている広瀬さんは、この社会の変化をどう受け止めているのでしょうか。

「触ることのおもしろさを伝えるにあたって、確かに今は逆風です。ですが、手洗い・消毒の徹底は長い目で見るといい方に働くのでは、と思っています。博物館で作品に触るということを一例に取ると、めちゃくちゃに触る団体もいれば、まったく触ろうとしない人たちもいる。ここに、『触るマナー』として手洗い・消毒を博物館での一連の儀式として取り入れることで、作品に対する接し方や『触る意識』も変わり、同時に感染リスクの低減にもつながるのではないかと思います。」

広瀬さんは「触るマナーの普及と定着」という言葉で説明してくれましたが、「リスクがあるから触らない」ではなく、「リスクがあるから手洗い・消毒をして触る」という習慣に変えていけるのではないか、ということを指摘しています。コロナ禍における対策は、必ずしも「触文化」にとってマイナスばかりではないというのが、広瀬さんの考えです。

 

触る体験が新しい発見と驚きを連れてくる

博物館での「触る」体験については、今後もさらなる改革と工夫をしていくそうです。

「最近は3Dプリンターの活用が進んでいて、美術品のレプリカもかなり忠実に再現できるようになっています。今は樹脂が中心ですが、素材として石膏やアルミを使うなどして質感も本物に近づけることができるようになってきているので、技術革新には期待するところです。」

本物は、基本的には正面の一方向から見ることになりますが、レプリカでは上から下まで、表から裏まで、360度触ることができます。こんなところがこうなっていたんだという発見と驚きは、触った人だけの貴重な体験です。

「今はパノラマムービーとかバーチャルミュージアムのような視覚メディアが発達していて、映像で伝えられる領域が増えています。その中で、実際に足を運んで手を伸ばして触る体験のおもしろさをもっと伝えていきたいと思います。触る体験は、見える・見えないに関係なく“武器”になるコンテンツですから。」

 

Prof Hirose Profile

広瀬浩二郎(ひろせ・こうじろう)さん

1967年、東京都生まれ。筑波大学附属盲学校から京都大学に進学。2000年、同大学院にて文学博士号取得。01年より国立民族学博物館に勤務。現在は同館グローバル現象研究部・准教授。「ユニバーサル・ミュージアム」(誰もが楽しめる博物館)の実践的研究に取り組んでいる。

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