糖尿病によって発生する目の病気<後編>

~糖尿病による失明をなくすために~

 先月は、糖尿病の三大合併症の一つである網膜症について、自覚症状がないまま進行してしまうため眼科での定期検診が欠かせないことをお伝えしました。

 

では、網膜症はどのように進行していくのでしょうか。先月に引き続き、名古屋市立大学教授の小椋祐一郎先生が、網膜症と糖尿病の進行について説明してくださいます。

 

網膜症の進行を食い止めるためにまず大事なのは、血糖値のコントロールです。糖尿病が改善してくれば、網膜症のリスクも減らすことができます。実際、コントロールができている人とできていない人をくらべると、後者の方が網膜症の進行が早いことがわかっています。

 

ただし、血糖値がよくなったからといって、網膜症が起こらないとは言えません。どんなに糖尿病が改善しても、診断されてから10~20年経てば網膜症になりうるのです。
「網膜症は完治することはできません。糖尿病がよくなれば進行を遅らせることはできますが、ゼロに戻すことはできないのです。糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cや血糖の数値はよくなっているのに、網膜症だけが進んでいる患者さんもいます。メタボリックメモリー(代謝記憶)といって、“ツケ”を帳消しにできないところがやっかいなのです。」

 

糖尿病がある人は、緑内障や白内障も10~20年早く起こります。これらも、血糖のコントロールが進行を遅らせることは言うまでもありません。まずは食生活を見直し、血糖値を正常にすることが求められます。

 

ですが、細胞が若い人たちは、網膜症の進行も早くなりがちです。重症な糖尿病、網膜症は30~50代の人に多いと言われています。網膜症は進行すると失明の危険があり、日本では50~60代の人の失明原因の第一位が糖尿病性網膜症である(※1)という事実は注目に値します。        

 

「失明には、まったく光を感じないものだけでなく、視力が0.1以下になって社会生活が送れないという視力障害、つまり“社会的失明”も含まれます。50代や60代で失明するとその後の仕事にも影響が出ますから、深刻な事態ですね。」

 

働き盛りの年代で糖尿病と診断されても、仕事が忙しくて眼科検診に行けず、気づいたときには網膜症が悪化して失明してしまうという人は少なくありません。眼科に通って検査をし、医師がタイミングを見て治療をしていれば、これまで通り仕事を続けられたかもしれない、少なくとも失明は免れたはず。まだまだ社会で活躍できる人が失明によって働けなくなるのは、社会にとっても損失です。小椋先生はこうおっしゃいます。                 

 

「糖尿病で失明する人を一人でも減らしたいんです。彼らは、本来検診に来ていたら失明せずに済んだはず。失明しなくていい人たちなんです。来院の頻度は、目の状態を見て医師が伝えます。初期段階では年に一回でも、網膜症が進行すると半年に一回とか三カ月に一回の来院になります。まだ大丈夫と思っていても、手遅れにならないように、医師の指示は守ってもらいたいと思います。」

 

糖尿病網膜症から失明という事態にならないためには、まず眼科の診察を受けて定期的に検診に通うこと。食生活を見直して血糖のコントロールをすること。そしてもう一つ、毎朝起きたときに片目ずつ物を見て、見えにくくなっていないかどうかをチェックすること。少しでも違和感があったときは、すぐに眼科に行きましょう。また、糖尿病眼学会では、目の状態を把握するのに有用な「糖尿病眼手帳」を発行していますので、かかりつけの先生に相談して是非活用してください。

 

自覚症状がないまま進行してしまう糖尿病性網膜症。早目かつ定期的に眼科専門医の指導を受けて、見えるよろこびを大切にしたいものです。

小椋 祐一郎(おぐら ゆういちろう)

名古屋市立大学大学院医学研究科教授

******* ご経歴 ********
1980   京都大学医学部卒業
1989   イリノイ大学医学部眼科 留学
1995   京都大学大学院医学研究科 助教授
1997   名古屋市立大学医学部 教授
2002   同 大学大学院医学研究科 教授
2013   同 大学病院 副病院長

学会役職等  
日本眼科学会常務理事・評議員、日本網膜硝子体学会常務理事、日本糖尿病眼学会理事長、日本眼循環学会理事、日本微小循環学会理事
など

主な著書
「硝子体手術 広角観察システムの基礎と応用」 文光堂、2012年
「眼手術学 網膜・硝子体(Ⅰ、Ⅱ)」 文光堂、2012年、など多数


(※1)日本眼科学会雑誌 118: 495-501,2014

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