見えにくさを感じたら、すぐに眼科専門医へ<後編>
~糖尿病黄斑浮腫について~
前編はこちら
糖尿病に付随して起こる糖尿病黄斑浮腫は慢性疾患であり、治療の道のりは長く続きます。杏林大学医学部眼科学教授の井上真先生は、患者さんの負担が少ない治療プランを立てるようにしているとお話ししてくださいました。
より負担の少ない糖尿病黄斑浮腫治療へ
糖尿病黄斑浮腫(以下、黄斑浮腫)の治療としてまず挙げられるのは、抗VEGF療法と呼ばれる薬物療法。これは、血管からの血液成分などの漏れを抑制する抗VEGF薬を眼内に注射するものです。
「外科的な治療としては、硝子体手術とレーザー光凝固手術です。今は、照射時間が短く低侵襲なショートパルスレーザーがあり、限局した部分だけを凝固するので網膜への組織障害が起こりにくくなっています」(井上先生)
黄斑浮腫の治療には、血管からの漏れを起こしている網膜血管瘤をターゲッティングしてレーザー光凝固を併用します。ショートパルスレーザーを用いると侵襲が少なく、抗VEGF薬の注射回数を減少させられれば患者さんの負担が少なくなるメリットがあります。
「一回の併用治療でも、しっかりターゲッティングできれば、黄斑浮腫をある程度落ち着かせることができます」
視力低下が起こると、仕事や日常生活にある程度の制限は出てきます。その上治療を始めるとなったら、生活のリズムが変わることを心配する方もいるでしょう。
「私たち医師の仕事は、患者さんが仕事ややりたいことをセーブしないで済むように、できるだけいい視力を保つように患者さんの負担が少ない治療を行うことでもあります。それに合わせた治療のプランを立てるようにしています」
黄斑浮腫は慢性疾患
前編でもお伝えしましたが、黄斑浮腫は腎機能をはじめとする全身状態に随伴する疾患です。目の治療がうまくいっても、体の状態が悪化することで黄斑浮腫が再発することも少なくありません。
「患者さんは、手術でよくなって見え方が改善すると、それで安心してしまいがちです。再発のリスクがある以上は、定期的に検査をして診察を受ける必要があります」
眼科への通院は、病態が落ち着いている人は3~4カ月に1回、薬物療法を続ける人は1カ月に1回が目安です。 「糖尿病は慢性疾患なので、完治するということはありません。黄斑浮腫は、糖尿病に随伴しているので、糖尿病と同様の慢性疾患だと思っていただければわかりやすいと思います」
糖尿病の治療をしている限り、目の治療も続くと思っておくといいでしょう。
患者さんご本人の意識と家族のサポート
最後に井上先生から、患者さんへのメッセージをいただきました。 「糖尿病は、血糖コントロールが欠かせず、自己管理がとても重要です。担当医の指示に従って、適度な運動をしたり、生活習慣を変えていったりするのも大切でしょう。また、糖尿病網膜症や黄斑浮腫のある方は、血管循環を悪くする喫煙は控えた方がいいですね」
患者さんのご家族の方は、ぜひ患者さんのサポートをしていただきたいと思います。 「自己管理といってもすぐには難しいこともあります。また忘れずに診察に通うように、気にかけていただければと思います。ご家族の協力が、将来的にいい治療結果を生むこともあるのです」
早期発見・早期治療が大切なのは言うまでもありません。また、眼科の定期的な受診と自己管理も必須です。専門医に診てもらうことが、病気の進行や視力低下を食い止める最善策なのです。
井上 真(いのうえ まこと) 杏林大学 医学部 眼科学 教授
******* ご経歴 ********
1989年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1989年5月 慶應義塾大学医学部眼科学教室入局
1994年7月 杏林大学眼科(網膜硝子体Clinical fellow)
1997年7月 Duke University Eye Centerに留学(Research fellow)
2003年10月 慶應義塾大学眼科専任講師 2007年4月 杏林大学眼科 准教授
2014年10月 杏林大学眼科 教授
杏林大学医学部付属病院
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