自分の命は自分で守る訓練を<前編>

~視覚障害のある人への防災教育~

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国立研究開発法人 防災科学技術研究所で客室研究員を務める、花崎哲司さん。元香川県立盲学校教諭で、視覚障がい児への防災教育に取り組んでこられました。防災教育をはじめた理由、また防災教育による効果や生徒たちの変化について聞いてみました。

 

経験のない事態に遭遇したときにどうするか?

2012年、東日本大震災の後から花崎さんは盲学校での防災教育を始めました。少子高齢化が進み、これからますます支援の必要な人が増える時代になることを鑑み、生徒たちの将来のためにとスタートしたのです。「視覚障害のある子で、特に先天性の子に対しては、親も学校の先生も『危ないからやっちゃダメ』『危ないから近寄っちゃダメ』と言うことが多い。だから危ないことを体験したことがないんです。これは障害のある子だけでなく、現代っ子に共通することですよね。でも、そのまま成長すると、非常時に自分で考えることができない大人になってしまう。そんな危機感がありました。」

花崎さんの言う災害対応能力とは、「状況を把握して、ベストな判断ができること。」災害では、過去に経験のないことに遭遇します。「いざとなったら逃げればいい」といっても、視覚障がい者はだれかに手を引いてもらわないと逃げられません。「誰もがパニックになる非常事態に、そんなことは期待できません。」だから、自分で自分の身を守る訓練が必要なのです。

 

防災教育の体験を積み重ねたことによる成長

人の情報収集手段の9割は視覚といわれており、非常時には見えない・見えにくい人が情報を得るのはとても難しくなります。「生徒たちは、火事や地震について知ってはいますが体験したことがない。ですから、アクティブラーニングとして災害を“体験する”ことから始めました。」

消防署の協力を得て、入念に安全確認をした上で、校内で煙のたちこめる状況を作りました。生徒たちは、煙を視覚的に認識できません。「彼らは、自分たちのいる教室に煙が入り込んできて、咳込むことによって煙の存在に気が付きました。」教室を出て安全な場所に避難するように指示したら、生徒たちはさっと廊下の真ん中を歩き、音のするほうに歩いて行きました。「彼らは、壁に反射する音で、廊下の幅を察知するんです。見える人は、煙で見えなくなったらどっちに逃げていいかわからず焦ってしまう。でも彼らは、音の鳴る方に行けば安全だとわかります。」

体験的な防災教育を積み重ねたことで、生徒たちの成長が見られました。「『運動場に出ようとするよりも、とりあえず3階の自立活動室に逃げた方が僕たちは安全じゃないか』という提案が出るようになりました。」集団行動ありきではない、自分たち一人一人の命を守るための最適な方法を、考え、提案し、実践できるようになってきたのです。

 

▼防災合宿で地域の高齢者とともに取り組む様子(写真提供:花崎哲司先生)

防災合宿の様子

 

視覚以外の感覚を防災意識に活かしていく

花崎さんは、「どんな人でも強みと弱みがある」と言います。「これからの時代は、それぞれの強みと弱みを支え合いながら、また交流しながら、安全な生活を維持することが大切ではないでしょうか。」

見えないことで不便なこともありますが、視覚以外の感覚、聴覚や嗅覚などを活かして安全を確保する方法があることを、生徒たちが証明してくれました。ある時、一人の生徒が、道で立ち止まって上を向いて深呼吸しました。「何をしているの?」と花崎さんが聞くと、「雨のにおいがする。もうすぐ雨が降るよ」と言いました。「本当に、その後でザーッと雨が降ってきたんです。生徒たちは、『漁船の音がいつもより近く聞こえたよ』とか『風が生暖かいね』と、日常の感覚を大切に生活しています。それは、防災意識にも役立てられるはずです。」

後編では、防災のための町歩きの様子や避難所での工夫などについてお伝えします。

 

プロフィール

花崎哲司(はなざき・さとし)

国立研究開発法人防災科学技術研究所 災害過程研究部門 客員研究員。元香川県立盲学校教諭、兵庫県立舞子高等学校非常勤講師、日本安全教育学会会員。

学校防災から地域防災へ、特に災害弱者と言われる人たちに視点を置いて研究をしている。

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