未熟児網膜症の経過観察<前編>
~医師の診察と家庭の観察が“両輪”~

早産で生まれた赤ちゃんに起こる可能性のある「未熟児網膜症」。治療後の経過観察で注意すべきことについて、眼科専門医の寺崎浩子先生に教えていただきました。
定期的な眼科通院は必須
未熟児の中には、眼の血管が成長している途中、つまり無血管領域がある状態で生まれる赤ちゃんがいます。その場合、血管のある領域に異常な血管が増殖することがあり、それを「未熟児網膜症」と言います。
病院での治療を終えると退院して家に帰りますが、重要なのはその後の経過観察です。
「重症度や治療内容にもよるので個人差はありますが、医師の指示に従って定期的に眼科に通院することが必要です。治療を終えたらはじめのうちは隔週とかひと月に一度、無治療で症状が治まった人はもう少し頻度は少ないかもしれませんが、医師による診察は必須です」
通院することで、診察だけでなく医師からのアドバイスも受けられるので、親御さんにとっては安心材料になるでしょう。
「診察時には、親御さんに眼の状態を説明したうえで、こういうリスクがあるから物がゆがんで見えたら教えてくださいねとか、日常ではこんなことに気をつけてくださいねと、医師は具体的な注意点を伝えます。そうすれば、何にどう気をつければいいかがわかりますよね」
小学校に上がるまでは「再燃」に要注意
未熟児網膜症の治療をして症状が収まり、退院したあと、どのくらいまで注意が必要なのでしょうか。
「特に規定はありませんが、やはり小学校に上がるくらいまでは何が起こるかわからないので、それまでは医師と密に経過を見ていただいた方がいいと思います」
まず注意しなくてはならないのが「再燃」です。再燃とは、異常な血管が再度増殖し、再び未熟児網膜症を発症すること。「治療を終えて1年以内は再燃の可能性も視野に入れ、慎重に経過を診る必要があります」
「治療ですべてのお子さんが治るわけではありません。重症化する子たちもたくさん見てきている中で、治せる段階で発見し治療することの必要性を痛感しています。そのためには早期発見・早期治療が肝心ですので、通院を怠ってほしくはないのです」
寺崎先生の患者さんの多くは、離れた場所に引っ越しても数カ月に一度は診察に来るそうです。
「ずっと診ている医師ということで、心の支えになっているのかもしれません。難しい病気ではあるので、地元の先生との連携も必要。今は小児眼科をかかげている病院やクリニックもあるので、通院が難しい場合は引っ越した先での通院先を相談してみるといいでしょう」
症状が進む前に治療を始める
未熟児網膜症から他の眼の病気を誘発する可能性について、聞いてみました。
「再燃することで血管が活動性をもってくると、それによって網膜がひっぱられて網膜剥離を起こす可能性があります。血管の活動性というのは、外から見てわかるものではありません。医師が診察しないとわからないので、どのくらい活動性が上がっているかを細かくチェックします」
網膜剥離になると、歩いていて物にぶつかったりするようになりますが、それはだいぶ症状が進んでいる証拠。そうなる前に、治療を始める必要があります。
また未熟児網膜症は、子どものうちだけではなく、大人になってからの眼にも影響があるそうです。
「これは未熟児網膜症の重症度にもよりますが、網膜剥離の頻度が増えたり、白内障を早く発症したりすることがあります。ただ、一般の方でも40代になったら定期的な眼科検診は必要なので、そのくらいになれば未熟児網膜症の既往の有無でさほど違いはないかもしれませんが、眼科に受診した際は医師にそのことを伝えたほうが適切な診察を受けられる可能性が高まります。」
後編は、家庭での経過観察についてお話しいただきます。
寺﨑浩子先生
名古屋大学未来社会創造機構 特任教授
1980年金沢大学医学部卒業。1984年名古屋大学大学院修了。1999年同大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座教授。2020年4月より名古屋大学特任教授。日本眼科学会前理事長。網膜硝子体疾患、眼科手術全般を専門とし、研究・診療において眼科をリードしてきた。