視覚障害をもつ人の新しい働き方<後編>

~ブラインドライター 松田昌美さん~

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文字起こしをする「ブラインドライター」として活躍している松田昌美さん。前例のない働き方を生み出した松田さんに、実現までのプロセスとポイントを聞いてみました。

 

人のいるところに行き、やりたいことを話す

視覚障害を持つ方にとって、働いて収入を得て自立するのは課題の一つ。働きたくても働けない、やりたい仕事が見つからない、生活できる収入が得られないという悩みをよく耳にします。松田さんは、どのように今の道を切り開いていったのでしょうか。

「自分でやったことでいえば三つ。まず一つめは、人の流れのあるところに出ていくこと。二つめは、出会った人に自分の好きなこと、やりたいことを伝えること。わたしは『パソコン使う仕事がしたい』とか『耳はけっこういいかもね』(笑)とか、言い続けました。そうしたら、『じゃあ、文字起こしやってくれる?』という話になって。自分が話した相手でなくても、その人が誰かに言ってくれるかもしれない。とにかく言い続けることです。」

三つめは、自分のやりたいことを、大きな力を持っている人に伝えること。これはとても勇気がいります。

「確かに、勇気は必要。でも、周りの友達に言うだけではなく、力のある人に『こういうことやらせてください』『協力してください』と言うのは、実現への近道だと思うんです。今はSNSがあるから、会いたい人に自分の思いを伝えることはできますよね。意外に叶ったりしますし。家にこもっている人も、SNSで自分の思いを表現することはできますから。」

SNSは手段の一つとして有用だという松田さん。自身も、ブログやツイッターで発信することで、たくさんの人とつながってきたのです。

 

 

視覚障害を持つ人の働き方を生み出した

松田さんが「ブラインドライター」として仕事を始めたころは、仕事の内容を説明するのも一苦労でした。「文字起こし」と言うと、「えっ? 雷おこし?」と言われることも。そのくらい、視覚障がい者と結びつきにくい仕事だったのでしょう。

「でも、電車に乗って通勤しなくていいし、好きな時間に仕事ができる、仕事をするのは家でもカフェでも公園でもいい。耳がいいという特性を生かせるし、責任をもって締切さえ守ればやった分だけ報酬がもらえる。これって画期的ですよね。こんな仕組みを作ったウチの代表はすごいと思う。」

もちろん、苦労もあります。まず、相当な集中力と忍耐力が必要。また、会議や取材のテーマが得意分野であるときは順調に起こせますが、苦手なテーマの場合には、内容を理解するのも起こすのも時間がかかります。誰がどの仕事を担当するかは立候補制だそうですが、苦手だからといって避けていたら収入につながりません。

「苦手なテーマを受けたときは、前日に『明日は何時間やるぞ』と決めて寝ます。そして自分にプレッシャーをかける意味で、『ここまで終わらないとご飯が食べられない』とか、工夫しながらですね。」

ブラインドライターは肩書きや職業名ではなく「視覚障害を持つ人の働き方」と言われるとすごくうれしいと言います。ここまで続けてきてよかった、そう思う瞬間です。

 

 

頑張らずに生きるための、仕事と家庭の両立

2019年に再婚した松田さんにとっては、仕事と家庭の両立がもっぱらの課題。仕事の報酬は出来高制です。自称・他称ともに「頑張り屋」の松田さんは、仕事に熱中するあまり、夫から「僕と生きる人生のことも考えてね」と言われたことがあるそうです。

松田さんは、独身の時、一緒に仕事をしている人からかけられた言葉が心に残っていると言います。

「『あなたは頑張り屋だし、頑張れるのはすごいと思うけど、頑張り続けるのは無理やで。自分の度量をちゃんとわかって、頑張らずに生きることをそろそろ学んだ方がいい』って言われて。そうか、と気づきました。」

だから、「頑張らない」と決めました。頑張らないことによって気力と体力を家庭生活に向けることができるようになり、家族を大事にできています。

「最初のころ頑張った自分をほめてあげて、ゆっくり長く仕事を続けていこうと思うようになりました。」

僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る――(高村光太郎『道程』)。松田さんの後ろには、たくさんの人が歩いています。そして松田さんの道は、これからもずっと長く伸びていきます。

 

プロフィール

松田昌美(まつだ・まさみ)さん

1986年、静岡県伊東市出身。「ブラインドライター」のパイオニアとして、視覚障がいに関する講演(埼玉県立大学など)やメディア出演多数。合同会社ブラインドライターズのスタッフとして現在も活躍中。

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